日本語の文法

去年の検定試験の文法や語彙の問題は、確かに従来の問題と比べるとかなり易しかったと思いますが、だからといって、これから日本語教師を目指す方々は、文法や語彙の勉強をあまりしなくてもいい、ということにはなりません。その理由は以下の2つです。

第一の理由は、このぐらいのレベルの文法、語彙の問題は、ほとんどの検定受験者が解けると思われますので、確実に点を取っておかなければならない、ということです。以前も説明しましたが、この試験ではボーダーラインに多くの受験者が集中していると考えられますので、基本的な問題を落としたら合格はまず無理でしょう。

第2の理由は、皆さんが実際に日本語教師になってからしなければならないことは、文法や語彙を詳しく、わかりやすく説明することである、ということです。それがプロの日本語教師がするべき最低限の仕事だと私は思います。それができない人は、学生からの信用が得られません。

ですから、実際に日本語教師として仕事を始めてから困らないように、少なくとも初級の教科書で扱われている文法事項はきちんと抑えておく必要があります。『みんなの日本語』のような、日本語学校でよく使用されている初級の教科書と教師用指導書に目を通しておかれるといいのではないかと思います。そうすれば、外国人に日本語を習得させるための文法は、日本語を分析するための文法である国語文法とは似て非なるものである、ということがおわかりいただけるでしょう。

今回は、[試験V]から、日本語の文法と日中対照言語学に関連する問題を取り上げます。外国人に教える日本語の文法を一通り学び、かつ、中国語を少しでも勉強したことがあるか中国人に日本語を教えたことがある人だったら、おそらく短時間で全問正解、ということになると思いますが、それ以外の人にとってはどうでしょうか。

問題2 次の文章を読み、下の問い(問1〜4)に答えよ。

日本語の動詞は様々な観点から分類できる。ここでは、テンスとアスペクトから見た動詞の分類について考えてみよう。
 テンスから見た場合、辞書形および(1)が現在を表すものと未来を表すものに大別できる。現在を表すものは状態動詞と呼ばれる。未来を表す動詞をここでは非状態動詞と読んでおこう。次に、アスペクトから見た動詞の分類について考えてみよう。この場合、状態動詞は(2)という特徴を持つ。一方、非状態動詞は「〜している」の形(テイル形)の意味によって、二つに分けられる。一つは(3)で、もう一つは(4)である。
(3)については興味深い現象がある。例えば、初めて入った他人の部屋の印象を述べる文としては、1)よりも2)の方がふさわしい。
1) きれいに片づきましたね。
2) きれいに片づいていますね。
ところが、中国語を母語とする学習者は、2)よりも1)を使いやすいという。この理由は(5)であると考えられる。

問1 文章中の(1)に入れるのに最も適当なものを、次の1〜4の中から一つ選べ。
  1 マス形  2 ル形  3 タ形  4 テイル形

問2 文章中の(2)に入れるのに最も適当なものを、次の1〜4の中から一つ選べ。
  1 テイル形をもたない
  2 テイル形が進行中を表す
  3 テイル形が結果残存を表す
  4 テイル形の意味が決まらない

問3 文章中の(3)(4)の組み合わせとして最も適当なものを、次の1〜4の中から一つ選べ。
  1 (3)テイル形を持たない主体変化動詞
    (4)テイル形が結果残存を表す主体動作動詞
  2 (3)テイル形が結果残存を表す主体変化動詞
    (4)テイル形が進行中を表す主体動作動詞
  3 (3)テイル形が結果残存を表す客体変化動詞
    (4)テイル形が進行中を表す客体動作動詞
  4 (3)テイル形が進行中を表す主体変化動詞
    (4)テイル形が結果残存を表す主体動作動詞

問4 文章中の(5)に入れるのに最も適当なものを、次の1〜4の中から一つ選べ。
 1 日本語は変化の時点に注目するのに対し、中国語は変化の有無に無関心だから
 2 日本語は変化の時点に注目するのに対し、中国語は変化の結果の状態に注目するから
 3 日本語は変化の有無に無関心なのに対し、中国語は変化の結果の状態に注目するから
 4 日本語は変化の結果の状態に注目するのに対し、中国語は変化の時点に注目するから