前述した「テンス」と一緒に考えますと、次のような表によって表すことができます。
非過去形 |
過去形 |
アスペクト |
〜はじめる |
〜はじめた |
始動相 |
〜ている |
〜ていた |
進行相 |
〜てしまう |
〜てしまった |
終結相 |
〜てある |
〜てあった |
既然相 |
さてここで、問2、問3の解答とも関連がある、「アスペクトから見た動詞の分類」を説明します。 主なアスペクト表現の中で、初級の比較的早い段階で導入されるのが「〜ている」ですが、この「〜ている」の形を使うか使わないか、「〜ている」の形になったときにどんな意味を表すか、という点を基準にして、動詞は以下の4種類に分類されています。
@ |
状態動詞:「ある、いる、要る」など、状態を表す動詞で、普通は「〜ている」の形になりません。 |
A |
継続動詞:「〜ている」の形になったとき、主体の動作、出来事が一定の時間継続、進行するこを表す動詞です。例:今、本を読んでいる。 |
B |
瞬間動詞:動作、出来事が瞬間的に完了する動詞、と言われていますが、そう考えるよりも、「着る」や「ふとる」のように主体の変化を表す動詞と捉えた方がわかりやすいと思います。「〜ている」の形になったとき、ある動作、出来事が完了し、その結果が何らかの形で残っている状態(結果の残存、結果状態)を表す動詞で、「結果動詞」とも呼ばれます。例:教室の窓が開いています。 |
C |
第四種の動詞:「すぐれる、そびえる、とがる、ばかげる」などの動詞で、文末ではいつも「〜ている」の形で状態を表します。「形容詞的動詞」とも呼ばれています。 |
ここまでお読みになれば、問2、問3の正解はもうわかりましたね。問題文の「状態動詞は(2)という特徴を持つ」の(2)に入るのはもちろん、問2の選択肢1の「テイル形をもたない」です。2の「テイル形が進行中を表す」動詞は上記の「継続動詞」、3の「テイル形が結果残存を表す」動詞は上記の「瞬間動詞」です。
問3は、以下の文章の(3)と(4)に入る語を選ぶ問題でした。「非状態動詞は「〜している」の形(テイル形)の意味によって、二つに分けられる。一つは(3)で、もう一つは(4)である。(3)については興味深い現象がある。」その後、(3)の動詞の例として、「片づく」が挙げられていました。問題文の「きれいに片づいていますね。」の「片づいています」は、「部屋が片付く」という変化の結果が残存している状態を表しますから、(3)は上記の動詞の分類のうち、3つ目の「瞬間動詞」ということになりますが、前述したとおり、瞬間動詞は主体の変化を表しますから、(3)に入るのは、「テイル形が結果残存を表す主体変化動詞」です。
非状態動詞」というのはこの問題文だけで使われている言葉で、「辞書形およびマス形が未来を表す動詞」のことですから、一般的には「動的動詞」と呼ばれ、上記のAの「継続動詞」とBの「瞬間動詞」のことを指します。(それに対して、上記の@の「状態動詞」とCの「第四種の動詞」は「静的動詞」と呼ばれます。)したがって、(4)は「継続動詞」、つまり「テイル形が進行中を表す主体動作動詞」ということになります。
というわけで、問3の答えは選択肢2です。
ここまで説明してきた、テンス、アスペクト、動詞の分類は、初級の日本語指導には不可欠の知識です。特に重要なのは、「継続動詞」と「瞬間動詞」の違いを日本語学習者に直接法でわかりやすく伝えることです。「どうすればそんなことができるのですか?」という質問が出ると思いますが、まずご自分で考えていただくことが大切だと思いますので、この記事ではその質問にはまだお答えしないことにします。ご自分で考えていただいた上で、どうしても適切な指導法が知りたい、と思われる方は、Aquariesの掲示板に書き込んでくださればできるだけはやくお答えします。
問4の問題は、日本語と中国語の対照言語学に関連する問題ですが、中国人の学習者かあるいは中国語に関する知識が少しでもあれば短時間で容易に解けます。仮にそのような知識がなかったとしても、問題文の文脈から解くことも可能です。
問題文を読むと、「初めて入った他人の部屋の印象を述べる文としては、1)よりも2)の方がふさわしい。
1)きれいに片づきましたね。
2)きれいに片づいていますね。
ところが、中国語を母語とする学習者は、2)よりも1)を使いやすいという。この理由は(5)であると考えられる。」と書いてあります。2)の文は、前述したように、変化の結果が残存している状態を表します。つまり、「日本語は変化の結果の状態に注目する」ということがわかります。
というわけで問3の答えは選択肢4です。この選択肢の後半の、「中国語は変化の時点に注目する」というのは、中国語では、動作や変化が既に終わったかどうか、に注目する、ということです。中国語の母語話者は「片づきました」の「〜ました」の形は、動作や変化の完了を表す「〜了」と同じ意味だと思い込んでいることが多いので、上記の1)の方が使いやすいようです。
検定試験の出題基準が変更されてからは、日英対照言語学に関する問題だけでなく、日中、日韓対照言語学の問題も出題されています。国内で日本語を教える場合、対象者は中国人、韓国人がほとんどですから、彼らの母語に関する知識が必要になります。英語だけでなく、初級レベルの中国語や韓国語を勉強されることをお勧めします。学習者の気持ちが良くわかるようになりますし、視野も広がりますよ。
Aquariesでも5月の連休が終わったら、毎週水曜日の夜に初級中国語講座が開講される予定です。講師は中国語のネイティブスピーカーですから、受講者は正しい発音を身につけることができます。英語を勉強されている皆さん、より多くの人とコミュニケーションできるようになるために、もう一つ外国語を勉強してみませんか。
[参考文献]
日本国際教育支援協会『平成15年度
日本語教育能力検定試験 試験問題』桐原書店 2004
アークアカデミー編『合格水準 日本語教育能力検定試験 用語集』凡人社 2002
高見澤孟他著『新・はじめての日本語教育1 日本語教育の基礎知識』アスク 2004
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