異文化(間)コミュニケーション、というのはどういうものなのか、ということが、だいたいわかっていただけたでしょうか。それでは、去年の検定試験の「試験T」の問題の一つを見てみましょう。
問題3 F 【コミュニケーション能力
「おはよう」と挨拶するにも、大きい声で元気よく言う場合と、小さい声でささやくように言う場合では、受け取るほうの理解は異なる。ことばによる伝達では、ことばの意味そのものだけでなく、それがどのような調子で言われたのかということがメッセージとして伝わる。後者のうち、とくに言語の音声表現にまつわる要素を(16)という。(16)には、音の高低、リズム、(17)、強弱、一文中の高低の幅である抑揚などが含まれる。
(16)の解釈は文化ごとに異なる。たとえば、日本人の話す英語は単調に聞こえる場合があり、それはアメリカ人にとって冷淡さや興味のなさと勘違いされることもある。日本語から英語へ(18)するときは、しっかり声を出し、はっきりと強調すべきは強調するなど、(16)も同時に切り替えることが重要である。 |
(八代京子他著 『異文化コミュニケーションワークブック』 三修社による) |
(16)文章中の(16)に入れるのに最も適当なものを、次の1〜4の中から一つ選べ。
1 パラ言語 2 メタ言語 3 第二言語 4 媒介言語
(17)文章中の(17)に入れるのに最も適当なものを、次の1〜4の中から一つ選べ。
1 話すときの視線 2 話すときの速度
3 話すときのジェスチャー 4 直接的な話し方かどうか
(18)文章中の(18)に入れるのに最も適当なものを、次の1〜4の中から一つ選べ。
1 ボトムアップ 2 スキャニング
3 ティーチャ―・トーク 4 コード・スイッチング
去年の検定試験に先立って「日本国際教育協会」のサイト上に掲載されていた「平成15年度日本語教育能力検定試験実施要領に基づく公開用問題」にも、『異文化コミュニケーションワークブック』という本に書かれていることをもとにして作成された問題がありました。この本は、検定試験の有力出典だと考えられますし、「セルフチェック」や「ステップアップ・エクササイズ」を通して異文化コミュニケーションが楽しく学べる本ですので、時間の余裕があれば一読されることをお勧めします。
上記の試験問題には『異文化コミュニケーションワークブック』の本文がそのまま引用されているわけではなく、この本の53〜55ページまでの文章が要約されています。上記の問題の文章よりも、要約される前の文章の方がわかりやすいので、後者の文章も参照しながら問題の分析をすることにします。
(16)の問題は、「パラ言語」や「メタ言語」という専門用語の意味を知らないと難しいのではないかと思います。『異文化コミュニケーションワークブック』によると、非言語コミュニケーションの中で特に音声表現にまつわる要素を「パラ言語(Paralanguage=周辺言語や準言語とも呼ばれる)」と言うそうです。上記の本には以下のような例が挙げられています。
「友人が早口の強い語気で文末を下げ気味にして「もう怒ってないよ」と言ったら、あなたは本当にその友人が怒っていないとは思わないでしょう。言語メッセージとパラ言語から読み取れるメッセージに矛盾が生じるとき、私たちはたいていの場合パラ言語から伝わるメッセージのほうを信じます。」
というわけで、(16)の正解は1の「パラ言語」ですが、他の選択肢も見ておきましょう。2の「メタ言語」も重要な用語で、「言葉を使って、言葉について考えること」です。3の「第二言語」と4の「媒介言語」については、説明の必要はないとは思いますが、一応定義だけを書いておきます。「第二言語」は、「母語を第一言語としたとき、その習得後さらに習得される言語」で、「媒介言語」は、通常は「媒介語」と呼ばれますが、「異なる母語話者同士がコミュニケーションを行うときに使用される、両者が共通して理解できる言語」のことです。
(17)は、知識がなくても、問題文をよく読んで文脈を把握すれば解ける問題です。(16)の正解がわからなかったとしても、「とくに言語の音声表現にまつわる要素を(16)という。(16)には、音の高低、リズム、(17)、強弱、一文中の高低の幅である抑揚などが含まれる。」と書いてありますので、(17)には当然、「音声表現にまつわる要素」が入るはずです。4つの選択肢を見ると、「音声表現にまつわる要素」は、2の「話すときの速度」だけです。1の「視線」と2の「ジェスチャー」は音声表現と無関係ですし、4の「直接的な話し方かどうか」も、「音声」とは関係がありません。したがって、正解は2の「話すときの速度」ということになります。
(17)のように、問題文の文脈を把握すれば解ける問題は、去年の検定試験では、特に「試験V」でかなり多く出題されています。単に「知らないから」という理由で簡単にあきらめないことです。
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