言語と心理

去年の検定試験では、以前ご紹介した出題範囲の表の「言語と心理」という区分からの出題が目立ちました。「言語と心理」の主要項目を挙げておきます。

1. 言語理解の過程
(1)予測・推測能力
(2)談話理解
(3)記憶・視点
(4)心理言語学・
認知言語学
2. 言語習得・発達
(1)習得過程(第一言語・第二言語)
(2)中間言語
(3)二言語併用主義
(バイリンガリズム)
(4)ストラテジー(学習方略)
(5)学習者タイプ
3. 異文化理解と心理
(1)社会的技能・技術(スキル)
(2)異文化受容・適応
(3)日本語教育・
学習の情意的側面
(4)日本語教育と障害者教育

前回取り上げた「異文化」も同様なのですが、この「言語と心理」も、旧出題範囲に基づいた検定試験ではほとんど取り上げられなかった新しい分野です。前回の検定試験の前にインターネット上で公開されていた「公開用問題」にも、この分野からの問題が多く出題されていましたので、次回もまた認知言語学や第二言語習得に関する問題がいくつか出題される可能性が高いです。知識がなければ手も足も出ないような問題がほとんどですので、特別な準備が最も必要な分野だといえるでしょう。

まず、言語の教育、学習、習得の研究と深いかかわりを持つ心理学について説明しておきたいと思います。このような心理学は「言語心理学」と呼ばれることもあります。

心理学の研究成果は言語教育の発展に大きく貢献し、特に新しい外国語教授法が誕生する理論的背景として大いに活用されています。例えば、後述するオーディオ・リンガル・アプローチ(Audio Lingual Approach)は行動主義心理学の影響を受けて発展したものです。また、TPR(Total Physical Response、全身反応教授法:米国の心理学者J.アッシャーが開発した聴解最優先の教授法)、CLL(Community Language Learning:米国の心理学者カランが開発した、心理療法を言語教育に応用した教授法)、サイレント・ウェイ(Silent Way:米国の心理学者・数学者ガッテ―ニョが開発した、教師が発話を極力控え、学習者の試行錯誤を促進する教授法)の提唱者はいずれも心理学者です。

心理学はほかにも、言語習得理論、人間の生活における言語行動や、近年盛んになってきているコミュニケーション学(人間のコミュニケーション行動やそのプロセスを様々な観点から研究する領域)とも深い関係にあります。また、心理学の用語や概念は、言語習得、言語教育、言語学などの領域でかなり頻繁に用いられています。

最近特に注目されている「第二言語習得研究」も心理学と密接な関係がある分野です。第二言語習得研究は第一言語(母語、両親から学んだ最初の言語)以外の言語、つまり学習目標となる言語の習得を研究対象としています。したがって、日本人が中学校、高等学校などで習う外国語(一般的には英語)の習得も一般的には第二言語習得研究の中に含まれます。

第二言語習得研究というのは、学習者が目標言語(Target Language: TL)をどのように習得していくのか、その習得に影響を与えるのは何か、教え方で違いが生まれるのか、学習者の母語は目標言語の習得に大きな影響を与えるのか、第一言語習得と習得プロセスに違いがあるのかなど、第二言語の習得にかかわる様々な事象の研究のことです。

上記の「第二言語習得研究」と関連する分野に、バイリンガル教育があります。バイリンガルというのは、皆さんもご存じのとおり、二言語を使用できる人を指す言葉ですが、これは2つの言語のどちらについてもある程度十分な言語能力を備えている場合で、どちらの言語についても自信がなく、語彙数が少なく、文法的な正確さも欠ける話者はセミリンガルと呼ばれます。