子どもの言語発達が不十分な段階でバイリンガル教育を強要すると認知的な発達にマイナスの影響を与えますが、十分発達した段階でバイリンガル教育をスタートさせると均衡バイリンガル(balanced
bilingual: いろいろな場面で2つの言語をほぼ同じバランスで流暢に使用できる人)に近づくことができ、かつ認知的な発達に非常にプラスになる、という研究結果があります。この研究結果から「敷居理論(Thresholds
Theory:閾理論)」という考え方が生み出されました。これは、三階建ての家に第一、第二の2つの敷居を想定することによってバイリンガリズム(個人における二言語使用)と認知発達の関係を説明する理論です。
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三階 均衡バイリンガル
このレベルの子どもは、年齢相当の能力を両言語で発揮し、
認知的な優位さを持つ。 |
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第二の敷居 |
二階 弱い均衡バイリンガル
このレベルの子どもは、年齢相当の能力を片方の言語では持つが、両方では持たない。認知的な影響はプラスでもマイナスでもない。 |
第一の敷居 |
一階 限定的なバイリンガル
このレベルの子どもは、両言語において能力が低く、認知的にはマイナスの影響が与えられる。 |
敷居理論の考え方(ベーカー『バイリンガル教育と第二言語習得』に基づく) |
カミンズは、敷居理論の考え方を基に、母語と第二言語の関係を取り上げ、発達相互依存仮説(Developmental Independence
Hypothesis)という新たなバイリンガリズムの考え方を示しました。この仮説では、「子どもの第二言語における能力は、既に第一言語で獲得した言語能力に依存している。第一言語が発達しているほど、第二言語も発達しやすくなる。第一言語が低い発達段階にあると、バイリンガリズムの達成は難しくなる」とされています。
バイリンガル教育には様々な形態がありますが、その一つにイマ―ジョン・プログラム(immersion
program)というのがあります。このプログラムはある1つの言語話者に第二言語を用いて教科を教えるというもので、カナダなどのように広い範囲で二言語が使用されている地域で行われています。
カナダで実験的に行われた教育では、幼稚園の子供達が母語の英語の読み書き能力も目標言語であるフランス語も同等に一定水準以上となること、互いの文化も尊重できることなどを目標にイマ―ジョン・プログラムを行いました。その結果、子供達は目標どおりに英語とフランス語の言語能力に置いて一定水準以上の成績をおさめたと報告され、イマ―ジョン・プログラムの成果は大きく広まりました。
上に述べてきたようなことを扱う「言語心理学」は、日本語教育だけでなく、TESOLまたはTEFLでもcoreのコースになっていて、非常に重要な研究分野です。英語や他の外国語の教師を目指されている方や、現職の語学教師の方にもぜひ勉強しておいていただきたいと思います。
言語教育における心理学の重要性が、少しでもわかっていただけましか。今回は、去年の検定試験の「試験T」から、近年ますます注目を集めているヴィゴツキーの理論に関する問題を取り上げて分析してみたいと思います。
問題9 次の文章を読み、下の問い(問1〜6)に答えよ。
ヴィゴツキーの理論では、子どもは大人や、より有能な他者との社会的相互行為の中で認知を発達させていくものであり、その時の他者の支援が重要な意味をもつと言われている。
それまでの学習観は、例えば、(1)に基づき「刺激・反応」という人間の行為に注目し、「ドリル方式」や「文法積み上げ式」の学習方法を生み出した。しかし、その後、この学習観に対しては、人間の脳を単に知識を詰め込んでいく空の容器のようなものとして捉えている点に批判がなされるようになり、理解、知識の獲得、技能の上達などに注目する認知主義の心理学の学習観が台頭してきた。しかし、認知主義の心理学も、個人の脳の中で学習が起きるものだと見なす点では先の学習観と共通した考え方だったと言える。どちらも(2)を目指したものである。
一方、ヴィゴツキー理論の学習観はこれまでの考え方とは違って、人間の学習は、学習主体の意図的で知的な行為であり、人間に特有の(3)をもってなす行為である点に特徴があるとする。ここで言う学習は、A学習主体が有能な支援者との相互行為の中で可能となったことを、やがては単独でできるようになる内化の過程であると捉えられる。
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問1 文章中の(1)に入れるのに最も適当なものを、次の1〜4の中から一つ選べ。
1 人間主義 2 経験主義 3 行動主義 4 構成主義
問2 文章中の(2)に入れるのに最も適当なものを、次の1〜4の中から一つ選べ。
1 拡張学習 2 状況的学習
3 学習主体による習得 4 相互行為による学習
問3 文章中の(3)に入れるのに最も適当なものを、次の1〜4の中から一つ選べ。
1 手続き的知識 2 高次精神機能
3 情報処理能力 4 社会的スキーマ
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