問7は、実は実際に日本語学校で行われる試験でも時々見られるケースで、出題者の意図とは違う答えを、文法的には正しいために正解とせざるを得ない、ということです。この問題も、知識はなくても少し考えてみれば、教師の対応として適切なものはすぐわかるはずです。

正解は1の「このテストの目的に合わせて、問題を修正する」ですが、つまり、学生が「とき」をきちんと理解しているかを調べるためには、絶対に「とき」しか(  )には入らないように問題の文を変えればいいわけです。例えば、「会社へ来る(  )、駅で部長に会いました。」だったら、このテストでは、□の中の8つのことばのうち、「とき」しか入れることはできません。

ほかの選択肢を見てみますと、2の「正解が二つあっても構わないので、このままでよい」というのは、このようなケースでは適切な対応とはいえません。表(B−2)を見ると、学生cと学生hは「かた」と記入して正解になってしまったため、彼らが「とき」を理解しているかどうかがわからなくなってしまったからです。3の「「かた」の教え方に問題があるので、教え方を改善する」も、表を見ると「かた」は17人中14人が正解しているので教え方に問題があるとは考えられず、この場合は妥当ではありません。4の「「かた」と「とき」を同時にテストに出さないようにする」は、「かた」と「とき」の両方の習得状況を知りたい場合は無理ですし、そんなことをしなくても、前述したように問題を修正しさえすればいいのです。


問8も知識がなくても表をよく見れば解ける問題ですが、実際の日本語教育現場でもテストの結果を見て分析することはとても大切なことです。この問題でも「不適当なもの」を選ばなければいけませんから、注意が必要です。正解は2の「問題2は、いろいろな解答が出てくるので問題として良くない」という解釈です。資料(A)の問題2の(  )には、このテストでは「ところ」以外のことばを入れることができません。ですから、8人の学生が不正解だったのは、問題が悪かったためではなく、「ところ」をきちんと理解していないためだと考えられます。


選択肢1の、「問題の難易度は、弱い点を知る上で適当であった」という解釈は、特に表(B−2)を見ると、「わけ」と「かた」は大部分の学生が理解できているが、「ところ」と「はず」は理解できていない学生が多い、ということがわかりますし、平均点も5点満点で3.47点でしたので、難易度は適当であったといえます。

選択肢3の、「「わけ」に関しては、課題の中では習得状況も良く、問題は少ない」というのも正しい解釈です。「はず」と「わけ」の使い分けは学習者にとって非常に難しいものであるにもかかわらず、表を見ると17人中14人が正解でしたので、習得状況はかなりいいです。

選択肢4の、「「はず」と「つもり」の使い分けについて、教え方や練習に問題がある」も、表(B−2)を見れば明らかです。正解が「はず」である問題3に「つもり」を入れた学生が17人中6人もいます。問題1の「わけ」と問題4の「かた」は17人中14人が正解ですから、問題は学生たちの理解力にあるのではなく、教え方や練習にあると解釈できます。

繰り返しますが、問6問8は知識がなくても解ける問題です。ただ、限られた時間内でかなり多くの問題を解くことが要求される試験では、1つ1つの問題を時間をかけて解くことができません。特に去年の試験Vには、実はこの3つの問題もそうなのですが、現職の日本語教師だったら短時間で正解が得られると思われるような問題がかなり出題されています。

まだ日本語を教えた経験のない方は、次回の検定試験を受験される前に、ボランティアの日本語教室で教えるなどして、現場での経験を積まれることをお勧めします。

[参考文献]
日本国際教育支援協会『平成15年度
     日本語教育能力検定試験 試験問題』桐原書店 2004
アークアカデミー編『合格水準 日本語教育能力検定試験 用語集』凡人社 2002
高見澤孟著『新・はじめての日本語教育2 日本語教授法入門』アスク 2004


今年の日本語教育能力検定試験10月17日(日)に実施されます。この試験に合格するためには、単に試験のためだけに勉強するのではなく、実際に日本語教師になってから役立つ知識を身につけることを目標に勉強することが大切だと思います。検定試験のため、と思いながら勉強するのはつまらないと思いますが、日本語教師になるため、と思いながら勉強すると楽しくなりますよ。

「出題範囲が広くて大変」と思われた方もいらっしゃるでしょうが、検定試験の勉強で身につけた知識は必ず役立てることができますので、めげないでくださいね。検定試験に合格する、ということはプロの日本語教師としてスタートラインに立つことを意味します。教師になってからももちろん学ぶべきこと、学べることはたくさんあります。今のうちに多くの知識を身につけておいたほうが、教師になってから少しは楽になるかもしれません。

 外国語の習得やコミュニケーションに興味をお持ちの方にとっても、これまでの連載でご紹介してきた異文化間コミュニケーションや言語習得、言語心理学の勉強は必ず役に立つと思います。Aquaries大阪校では、4月29日(祝)には石井隆之先生「日本社会と日本人の考え方・言語観」について、5月9日(日)には松本道弘先生「コミュニケーション能力」についてお話をしていただく予定です。絶対にためになるお話が伺えますので、ぜひお越しください。

Let’s enjoy the process! (陽は必ず昇る!)