こんにちは、フリーランス通訳ガイドの石井隆之です。通訳ガイドには、プロとしてのガイドとボランティアガイドの2つがあります。しかし、心得として共通していることがあります。5つあるので、私は「通訳ガイドの五戒」と呼んでいます。

今回は、そのあたりのお話をしましょう。
まず、案内する場所のことをよく理解しましょう。そんなの当たり前じゃないか!と言う声が返ってきそうですが、3R’sまで考えていますか。3R’sとは読み書きそろばん(Reading, Writing, and Arithmetic)のことではなく、Restaurant(食事の場所), Rest room(トイレ)、Resting room(休憩所)のことです。

第2点は、いろいろなことを知っているべきであると言うことです。例えば仏像を説明するとき、「仏は大地をしっかり踏みしめることができるように、足の裏は偏平足になっている」とか「仏像の頭のふくらみは髪を結っているのではなく、脳が詰まっている」とか、最近流行の「トリビア」的な薀蓄(うんちく)がものを言います。鏡餅を見て、「どうして餅が2つなの?別に3つでもいいのに」とか「何故みかんをのせているの、りんごではだめ?」などと聞く人もいます。予期しない質問にも耐えられることが必要でしょう。

第3に、ガイドは通訳でもあると言うことです。土産物屋の人の言うことを訳したり、レストランのメニューを訳したりすることもあるでしょう。英語力を普段から磨いておきましょう。おみくじを引いたとき、翻訳するのに困らないようにしておくと、喜ばれますよ。また、普段から町に氾濫する漢字を英語に翻訳したり、日本語を教えたりすることも、知的なお客さんを案内したときは必須です。彼らの名前を漢字で音写してあげると面白いでしょう。

第4点目に、やはり、「その国の代表である」、すなわち、日本人なら、「日本の代表である」と言う意識を持っておくことが極めて大切です。よく言われるように、通訳ガイドは日本の「民間外交官」ですね。私は、説明は「易しく」、心は「優しく」を目指しています。さらに、一生懸命であることは、人に感動を与えます。ガイド1人の言動で、日本人全体のイメージに影響を与えます。これは大変重要なことですよ。

最後に、なんと言っても、楽しんでもらうことが大切です。楽しんでもらえるかどうかは、自分が楽しいかどうかによります。楽しいガイド、笑いの絶えないガイドを目指しましょう。俗に「笑い3年、泣き3月」と言われます。人を泣かせるような話をするのは、3ヶ月の修業で済みますが、人を笑わせるのには3年間の修業が必要と言うことです。 自分だけのジョークをいくつか持っているとよいでしょう。私は、仏教に関して、難しい質問をされたとき、”Since I am not Buddha, it is difficult for me to answer it correctly.”とか”Will you wait until I attain spiritual enlightenment?”とか言って笑わせたりしています。そして、大切なことは、たとえジョークが受けなくても、ショックを受けないことです。何事もなかったかのごとく、先へ進みましょう。

以上の、5点をまとめてみましょう。ガイドとは、案内の場所をよく知るような、Geographer(地理学者)であり、いろいろなことに造詣が深いUniversalist(博識家)であり、日本語と英語の間で通訳を即座に行えるInterpreter(通訳者)であり、日本の国の代表であると言う意識を持ったDiplomat(外交官)であり、そして、何より楽しいガイドが提供できるEntertainer(芸人)であるべきでしょう。これらを並べると、頭文字がちゃんとガイド(GUIDE)になりますよ。

Geographer 地理に詳しい情報を持て
Universalist  雑学博士のような知識を持て
Interpreter  通訳者の技術を持て
Diplomat   民間外交官の心を持て
Entertainer  芸人魂を持て

つまり、地理学者のごとき「情報」、雑学博士の「知識」、通訳者の「技 術」、外交官の「心」、そして、芸人の「魂」の5つの要素が必要なのです。

さあ、皆さん、以上の5つのことをわきまえた「本物の通訳ガイド」を 目指しましょう。私は常に応援していますよ。