認知心理学の分野では教授法の一つとして、第二言語の単語学習に有効な方法がいくつか考案されていますが、その中で多くの実験研究が行われているものにキーワード法があります。
キーワード法による第二言語の語彙習得は次の2段階から構成されています。第1段階は、第二言語の単語と音韻的に類似した母語の単語をキーワードとして見つける段階です。音韻的な類似は、第1音節を含んだ部分的なものでも構いません。第2段階は、そのキーワードと第二言語単語の意味(母語での翻訳同義語)とをイメージで結びつける段階です。
例えば、ドイツ語の母語話者が日本語の「掘る」や「彫る」という動詞を覚えるときは、まず音韻的に類似したドイツ語の「Holz
(木材)」をキーワードにします。次に、「Holzで土を掘る行動」や「Holzを彫る風景」をイメージします。この2段階を経ることで、後に「掘る」や「彫る」を見たり聞いたりしたとき、音韻的特徴から「Holz」が検索され、さらに上記のイメージを媒介として「graben(掘る)や「schnitzen(彫る)」が容易に思い出せます。
このキーワード法は、入門期や初級の学習者には有効ですが、中級以降の学習者にはそれほど有効ではないと指摘されています。中級や上級になると、学習者は自分なりの学習方法を確立していることが多く、また文脈から新出単語の意味を推測することができるからです。さらに、キーワード法は第二言語から母語への翻訳テストには有効ですが、母語から第二言語への翻訳テストにはあまり有効ではないことも指摘されています。キーワード法は通常、第二言語の単語の正確な発音や綴りを再生する課題を要求しないからです。
したがって、「 入門期や初級の学習者が、具象名詞や形容詞、動詞といった基本単語を 見たり聞いたりするとき、まずそれらの意味がわかるように」語彙習得の目標を設定するなら、キーワード法は有効な記憶方法といえます。
問2は知識がなければ解けない問題かもしれません。選択肢4の「相互行為による学習」だけは、問題文の文脈が把握できていれば不正解だとわかりますが、選択肢1と2が何のことかわからなければ迷うのではないかと思います。
問題文の第1段落から分かるとおり、「相互行為による学習」は、ヴィゴツキー理論の学習観ですが、 この学習観は第3段落の最初の行から分かるとおり、行動主義や認知主義の心理学のそれとは異なるものです。(2)に入るのは「行動主義や認知主義の心理学が目指したもの」ですから、選択肢4は当然不正解ということになります。
残りの選択肢の1「拡張学習」というのは、おそらく「拡張練習」を変形したものでしょう。「拡張練習」(expansion
drill)は、前述したオーディオ・リンガル・アプローチの文型練習の一つです。これは基本となる文に教師の与えるキューをつなげて文を長くしていく練習のことで、長い文が滑らかに言えるようになることを目的にしています。例えば、「勉強しました」(基本文)→「日本語を」(教師の与えるキュー)→「日本語を勉強しました」(学習者の発話)→「学校で」(キュー)→「学校で日本語を勉強しました」(学習者の発話)のような練習をします。
選択肢の2「状況的学習」は、ヴィゴツキーをはじめとする「状況派」と呼ばれる人々の用語です。「状況派」というのは、人間の心理や発達は人間を取り巻く社会、文化的な状況とともに考えるべきだ、と主張した人々のことですが、彼らは、人間が日常の文化的実践に参加して仲間や環境と相互行為を繰り返すうちに、その認知的行動、知識、技術は変容すると考え、こうした変容のプロセスを「状況的学習」と呼びました。この「状況的学習」の例として、状況主義の代表的な研究者であるレイブとウェンガーは、産婆や洋裁の仕立屋のような徒弟制度集団を挙げています。
というわけで、問2の正解は3の「学習主体による習得」ということになります。
問3はヴィゴツキー理論に関する知識を問う問題であり、また、1と4の選択肢が何のことかわからなければお手上げ、ということになるでしょう。
まず選択肢1の「手続き的知識」というのは、やり方についての知識のことで、これとセットで覚えるべき言葉は、「宣言的知識」(言葉で説明できるような知識)です。例えば日本語の母語話者なら、「は」と「が」の使い分けは、たとえ説明できなくても自然にできると思いますが、これは「手続き的知識」として保持されているためです。しかし、日本語を教えるためには、その使い分けを「宣言的知識」として他の人に説明できるようにしておかなければなりません。
選択肢4の「社会的スキーマ」の「スキーマ」は、認知心理学の専門用語で、過去の経験や知識が概念やイメージのようなものとして記憶されたもののことです。
正解は選択肢2の「高次精神機能」ですが、問題文の空所の直前の「人間に特有の」からだけでは類推しにくいので、やはり知識がなければ解けない問題といえるでしょう。
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