7月上旬からアクエアリーズスタッフ3人で,オランダ,オーストリア,フランス,イタリアの文化を豪速で吸収し,その後,講師のトシアーナ先生のケンブリッジ大学サマースクールでの国際関係論研修のために,ケンブリッジにアパートを借りて滞在しました。しかし,アートや観光に興味がない私にとっては,欧州はカルチャーショックは多かったものの,言語障壁からオランダ以外は楽しめず,英語圏のイギリスについてからは,水を得た魚(a fish in water)のようになりました。それまではテレビ番組がさっぱりわからなかったのが,日本語感覚でわかるようになり,掲示も新聞・雑誌もすべてエンジョイできるようになり刺激的でした。また,物価が日本の2~3倍と超高かったEU圏と違って,ケンブリッジでは自炊をすれば日本の半額,外食をしても日本と変わらず,気候も治安も良く,超住みやすい街でした。
今回の海外研修で痛感したのは,「英検1級」の大きなバリューと弱点です。最近ではTOEICの方が価値あるテストと見なされ,英検はアカデミックだとか,非実用的だとか,マニアックとか非難する人もいますが,それは ”barking up the wrong tree”(お門違い)です。実際,語彙,読解,リスニング,ライティング,スピーキングとバランスのとれた試験で,総合的バリューでは他の試験と一線を画します。
一番いいのが,「語彙」です。語彙セクションが9割以上安定して取れるぐらいボキャビルすれば,英語の本や雑誌の内容やタイトルやヘッドラインや掲示や放送の語彙が大体わかるので,英語生活をとてもエンジョイできるようになります。この意味で,英検1級の語彙問題正答率を決して7割レベルで合格することがないように,しっかりボキャビルされることを心から祈っています。「語彙力」というのはその後の英語人生を快適に暮らすための「大きな財産(invaluable asset)」となります。
この意味で,TOEICでは全く物足りず,アクエアリーズの上級英語習得プログラムは功を奏していると再確認しました。英語人生を楽しむための英語のスキルという点では,英検1級合格は単なる通過点であって最終目標ではないので,7割程度の語彙力で,通りやすくなった新傾向英検1級にパスしてしまった人は,調子に乗らずにもう一度英検1級を受けて語彙問題スコア9割以上を目指すか,国連英検特A合格を目指すとかして,安定した語彙力というassetを身につけましょう。
次にいいのが英検1級のリスニング問題です。名所の英語案内ツアーに参加しても,英語放送を見ても,ディスカッションに参加しても,電車に乗っても「優れたリスニング能力」のとてつもない重要性をひしひしと感じます。英語学習中上級者であれば,自分が質問したことに対する英語のレスポンスの意味が分かるでしょうし,ネイティブガイドの英語やニュースの英語なら何とか理解できるでしょう。ところが,他の人が質問した英語とそのレスポンスを瞬時に理解したり,ディスカッションでメンバー同志が盛り上がっているのを聞き取ったり,討論番組や洋画・ドラマをエンジョイしたりするのは,英検1級のリスニング問題で語彙と同じく最低9割以上のスコアが取れるリスニング力が必要になってきます。
今回,特にその価値を痛感したのが「リアルライフリスニング力」です。イギリスの電車は本当に信用が出来ず,ロンドンからシェイクスピアの生地ストラトフォードアポンエイボンに向かう電車の社内改札に回ってきた女性が,みんなに最短の乗り換え方「~で下車が早い」と何度も説明していました。ところがその数分後に後で放送が流れ,「何らかの理由でその便がキャンセルされている」とか何とか言っているのが聞こえた気がしましたが,既知情報と説明のくどさとそのインターバルの短さでまさかと思い,その放送を真剣に聞かずに聞き流してしまいました。その結果,予定より1時間以上もかかって目的地に着き,一時はどうなるかというほどの困難に陥りました。その時に駅員の言葉より放送をきちんと聞いて下車した人は,ネイティブ,ノンネイティブ含めて乗客の半分ぐらいだったと思いますが,リアルライフリスニングの重要性を痛感しました。
日本ではよく英語のスピーキング力の重要性が叫ばれますが,それは初中級者に当てはまることで,中上級者の場合はリスニング力の方が数段重要です。スモールトークでもアカデミックディスカッションでも,ネイティブ,ノンネイティブにかかわらず,いらいらするほど質問やトピックと関係ないことを述べたり,インテリジェンスを疑うようなピンとのずれた発言をしたりする人がいます。そういった人のおしゃべりは聴き手に迷惑をかけることが多いので,人の話を聞いて,比喩やジョークを含めて別の言い方をしたり,少々言い間違ったりしても相手の意図をくみ取り,ぶれない知的な発言ができるようにすることが重要です。
スピーキングに関しては,プレゼンや講義やインタビューなどで録音されるような状況で正確な英語を話すのでない,単なる掛け合いであれば中級レベルの英語で十分です。それよりも別の”assertiveness”ファクターと,ディスカッションであれば問題意識や背景知識の方が意味を帯びてきます。私は,本質的に英語であれ日本語であれ,まくしたてて自己主張するタイプなので,相手のことや質問をしっかり聞かずに,自己主張をしたり,ピンとのずれたことや弱いアーギュメントをしゃべりまくる西洋人やインド人の英語はうっとうしいことが多いですが,日本人とそういった人が話し合いをすると完全に聞き役になってしまうので,両方の姿勢も理想的なコミュニケーションのスタイルとは言えません。
英検1級のスピーキングテストは,社会問題についてsensibleな意見を述べるものですが,”sensibility(筋の通ったまともな発言力)”にうるさい,特に西洋人との話し合いをするのに有益なスキルを身につける上で効果的と言えますが,「事物」「位置関係」「数字」や「スモールトーク(anecdote[エピソード]を含む)」などを英語で言うスキルを身につけることが出来ないので不完全なテストと言いえます。そこで,そういったスキルを身につけるには,英検だけでなく,それらのバランスのとれたIELTSのスピーキングテスト対策トレーニングや,通訳案内士の2次試験対策トレーニングなどが必要になってきます。
それからこれはほとんどすべての英語検定試験に当てはまることですが,リスニング問題もリーディング問題も記述式でなく,multiple choice形式なので,実際の日常生活,クラス,会議のような,「聞いて答える」といった”interactive”な状況に対応できるようになっていないという点です。これは試験という便宜上の理由からやむを得ないことですが,これでは状況判断力を身につきますが,「実践的コミュニケーション力」が身につきません。そこでこれらの「実践的スキル」をUPさせるには,英検もTOEICも特にリスニング問題は記述式で答える練習をする必要があります。
まあこれは試験対策の効率面から難しいので,模擬問題などで試験対策をすると同時に,CNN放送や実践ビジネス英語やEJインタビューなどを用いて行うのが効果的です。アクエアリーズは,今回の異文化&英語研究に基づいて,今年の秋学期からは, 4時間の授業の中で必ずそれらを補強として取り入れる予定です。
さていかがでしたか。「ボキャビル」と「リスニング」と「記述式リスニング学習法」の重要性はわかっていただけましたか。特に語彙に関しては言い忘れましたが,英語生活をエンジョイする上で「イディオムの知識」も非常に重要です。例えばイギリスで何度も見たり聞いたりしたのが,”bite off more than one can chew”(自分の能力以上のことをしようとする、背伸びする)です。これを知っていないと英語放送や雑誌を楽しめなくなります。また,違法駐車を防ぐための掲示が,”You are parking up the wrong tree.”となっていましたが,これは前述の ”bark up the wrong tree”のもじりで,もとのイディオムを知っていると笑えます。このようにイディオムはそれを覚えるだけでなく,もじりを自らクリエイトしてジョークを飛ばすことが魅力的な人間になります。
私は最近読んだ「引き寄せの法則」のサイトの情報で,徳を積めば自分も他人も同時に幸せにすることができるというのが心に響いています。そして徳を積むには,「上座行(上から目線で,教えたり,子育てしたり,人助けしたりすること)」と「下座行(下から目線で,自らのスキルをUPさせたり掃除をしたり,体を鍛えたりなどの精進をすること)」のバランスが必要であるというのが印象的です。イギリスに来るまでは,英検1級クラスを35年間指導し,工業英検1級や国連特Aなどの高度なクラスも10年以上教え,人生もクラス指導もマンネリ化の中で苦しんでいました。ところがシェイクスピアの生地を訪れてインスパイアされ,久しぶりの「英語漬け」の毎日で,心機一転して一からやり直せるようにリセットできました。今後は,さらなるスキルと教養と人間力UPのために,1年に一カ月ぐらいは英語圏・非英語圏の英語研究に海外に繰り出す予定です。そして,それを皆さんとシェアできればこの上ない幸せです。それでは明日に向かって英悟の道を
Let's enjoy the process!(陽は必ず昇る)
植田一三(Ichay Ueda)